

ソノヒグラシと平成レトロの物語
ある日の昼下がり。
ソノヒグラシと、友達のユメミゴコチとコハルビヨリの3名はおうちで雑誌を読みながらゴロゴロしていました。
「見てみて…!さいきん、平成レトロが流行ってるんだってぇ」
世間は連休中。
どこか遊びに行くにしても混んでいるのでとりあえず家でまったりするのが恒例になりつつありました。
ユメミゴコチが珍しく高揚しながら特集ページを指差しました。
「へいせい、れとろ?」
「うーん、ポップでカラフルな感じですわっ!ほら!」
「わぁ、わぁ!」
目ざとく食いつくのは流行好きなコハルビヨリ。
ふたりのテンションにつられてソノヒグラシも楽しくなってきました。
「この、パンダ柄の缶ペンとかキュートですわ〜」
「うん、うん!」
平成レトロ特集のページには、一周回って新しさもあり、懐かしさもあり、なんとも魅力的なグッズや文化のことが書いてあります。
「ふんふん…交換日記をしたり、プロフィール帳を書いたり…紙で友達との仲を深めるってなんだかエモいねぇ」
「この懐かしプリンとかクリームソーダとかと一緒に映え写真撮ってみたいですわ」
「ともだち…プリン…クリームソーダ…ばえ……!!!!!」
ふたりが盛り上がっている声を聞きながら、ふわふわと想像を膨らませるソノヒグラシ。ぼーっと雑誌を眺めていると、ソノヒグラシの目線はページのある箇所に釘付けになりました。
それは…
「バイト、する!ともだち、できる!」
「「え?!」」
平成レトロをテーマにしたカフェのバイト募集でした。
ーーーーーーーーーーーー
「あのソノがすごいスピードでバイトに応募しているのはびっくりだよねぇ」
「ふふっ。ソノさんの好奇心がビビビッときたんでしょう…」
ソノヒグラシの夢は、ともだちを増やすこと。ふたりの会話を聞いて、”平成レトロカフェならともだちを増やせるかも”と連想したようです。
ユメミゴコチとコハルビヨリが向かったのは、とあるカフェ。カフェの扉の横には色とりどりの食品サンプルが並んでいます。
「わぁ、どれにするか迷うねぇ」
「そもそも、この大きさのグラスとかをソノさんは運べるのかしら…?」
「たしかに。それにしても、この"写真大歓迎"は珍しいねぇ」
立て看板には"店内 写真OK!大歓迎"の文字が書かれています。中に入ると、店内は写真映えのしそうなかわいい空間が広がっていました。店内のお客さんの笑顔の先をたどると、ソノヒグラシが一生懸命に働いて…
「…ソノ、店員さんというより、ドジっ子看板妖精みたいなかんじ?」
「想像と違いますが、生き生きとしていますわね」
店員さんと一緒にとてもゆっくりとソノヒグラシがソフトクリームを運んでいます。若干溶けたソフトクリームがお客さんのテーブルに到着しました。
「溶け…ちゃった…ごめんなさい」
「大丈夫よ!よくがんばりました」
「チョコ、足すの」「いいの?ありがとうねぇ」
一生懸命なソノヒグラシの様子をみて、お客さんたちは食べ物を一口あげたり、写真を撮ったり、盛り上がっています。
そばにいた店長さんがユメミゴコチにコソッと言いました。
「ソノさん、失敗も多いけど自分なりにフォローしようとしたりしているから、そのいじらしい姿がとても評判でね。がんばってるよ」
「ソノの良さをわかってくれるお店でよかったぁ」
笑いながらソノヒグラシに近づいたコハルビヨリに、ソノは目をキラキラ輝かせます。「ソノさん、楽しそうでなによりですっ」
「うん、うん!」
「楽しいお仕事でよかったねぇ」
「さ、たくさん写真に残しましょっ」
カシャッ
失敗をしても、誠実な行動で笑顔につながるかもしれない