f:Norimitsu Kuwana 的直播

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Norimitsu Kuwana @f:100003627237790
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今から8年前の私です。「だから、何でこの肉を使うんだよ!何回いえばわかるんだ。」と上司に怒られ、「はい、すみませんでした。」が日常茶飯事のように続く毎日でした。本当に惨めで楽しくない毎日でした。

 でも、めげずに頑張れたのは、20歳の時に、バイト先の神戸牛のステーキハウスで和牛肉を初めて食べた時に感じた感動が忘れられなかったからです。ステーキハウスはご存じのとおり、鉄板の上で焼くスタイルです。そして、調味料といえば、塩・コショウが基本です。コレが今の私の原点に通じています。



 「現実と理想のギャップ」

 当時勤めていた、居酒屋が新業態として焼肉屋を始めて、4店舗目ができるときに、いきなり店長としての人事異動の話が来ました。その当時の私は成り行きでなった調理師という仕事に対して、楽しさも見いだせず、ただただ現状がかわらないかな~と惰性で働いていました。だから、調理の技術も上がらず、お荷物的扱いだったような気がします。

 さすがに戸惑いましたが、ちょうどやる気も失せていたし、焼肉に興味があったのでOKしました。しかし、前向きな気持ちもつかの間で、入ると肉のベテランばっかり。当然ですが…。しかも、一から丁寧に教えてくれるのかなと思いきや、初日に「肉のカットの技術を一週間で完璧にしろ。」正直「えっ?」と思いましたし、「無理やろう」とも思いました。



 でも、時間は過ぎ一週間後、悪夢の始まりでした。それまでは、平日はどちらかというと暇で、これならいけるかなと思っていたんですが、こういう時に限り次から次へとお客様が来店され、当然のように、オーダーに追われるならまだしも、「遅い」という声のオンパレード。挙句の果てに、バイトにも言われるあり様でした。でも、どうしたらいいかが分からず疲労感だけがたまり、意気消沈。



 「今の自分に足らないものは、何か?」という自問の毎日でした。

  あまりに疲れていたのもあり、閉店後こっそりひとり焼肉をしてたんですが、ある日今までは「おいしい」と思っていた肉が「しつこい」にかわったんです。



 きっと疲れていて、舌がおかしいのかな?ぐらいの感じで、当時の私はそれ以上何も感じませんでしたが、今思えば、和牛肉の味について真剣に味わった瞬間だったように感じます。

 それからも毎日同じ繰り返しをしていく中で成長し、売り上げも安定していきお客様も定着していき、気づけば5年の月日が経ち、社長がよく言っていた「お客様からお代金をいただきながら、「ありがとう」や「ごちそう様」がいただける飲食業のすばらしさ」についての話を実現しようと自分で商売を始めました。

 当時は、勤め先を目標としていたため、A-5ランクの和牛肉を仕入れていました。当然肉がおいしいんだから、お客様が来ないわけがないと自負していましたが、現状は散々たるものでした。今でも当時の悪夢は頭から離れません。

 そんなある日、老夫婦が来て、バラを注文しました。しかもすぐ帰り、卓上を見るとほぼ手つかずの状態でした。不思議に思い残っているお肉を焼いて食べた時に衝撃が走ったと同時に罪悪感にさいなまれました。というのもお店の特徴として、ヒマラヤ岩塩プレートで食べるスタイルだったんですが、それまでは、おいしい塩とおいしい和牛肉は絶対うまいと確信してたんですが、コレがバラに全く合わない事実が認識できた瞬間でした。   

「評価基準がすべてではない。味わい方は千差万別でいいんだ。」と思えるようになりました。

 それからはランクやブランドに評価される肉だけでなく、岩塩に合う肉をコンセプトに食べまくりました。すると、メニューが180°変わりました。そして、一番の変化はランクを伝えることから、肉本来の味、しかも黒毛和牛の味を伝えることこそが自分の最大の役割ではないかと確信しました。



 「本当のことを、話します」

 実は、日本で和牛と呼ばれるのは、黒毛和種を含め4種類だけです。昨今、国産牛と呼ばれる肉が市場にあふれていますが、それらは日本で3か月以上飼育されれば、たとえ外国産でも国産牛と呼ばれる事実をご存知ですか?

 和牛、特に黒毛和種については、飼育方法、飼料、品種改良の研究開発費など、たくさんの目に見えないコストがかかっているんです。だから安心・安全なんです。



 確信というか覚悟が決まると、不思議なことに和牛肉の説明をしている自分や、それを真剣に聞いているお客様との間の距離感が近くなったように感じました。そして、会話が弾んでいるようにも感じました。

 その中でも本当に嬉しいことは、お客様が肉の部位の味を認識して、好きな部位として覚えて帰ってくれることです。そして、もう一つ嬉しいことが、次の来店時にはお客様自身が、自身の口で語っているんです。これを見た瞬間に、ステーキハウスで食べた時の、和牛肉のおいしさを誰かれ構わずに、伝えていた自分とリンクしましたし、私がやるべきことは『コレだ!』という思いが沸々と混みあがってきました。



 地道ではありますが、最近は口コミで来ていただくお客様が増えています。そして、そのお客様の中から、また語り部が増え、本当の肉の味を伝えていただけること、そして、それを通じてTPPで規制緩和が取りざたされていますが、「黒毛和牛=日本」という認識を一人でも多くの方に伝え、黒毛和牛の「おいしさと安心安全」を伝えていくことで、日本ブランド『黒毛和牛』の存続と繁栄。そして、伝統の継承の一助になることが私の使命だと感じています。